マレーシアでの起業と就労ビザについて。


  • マレーシアのビザ制度はとても複雑で、年々変化しています。

目次

ビザに関する電子書籍をAmazonにて発売中です。

2023年9月1日、電子書籍『マレーシア移住でビザ選びに失敗しないための入門書』を出版致しました。

起業に関するビザに関してもかなり細かく解説しております。
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マレーシア移住でビザ選びに失敗しないための入門書

 

就労ビザ申請は会社経由で行う必要があります。

マレーシアで起業して働く場合、就労ビザ(正式名称は「雇用パス」(employment pass)を取得する必要があります。

日本で起業する場合は、まずは個人事業から小さくスタートをして、ある程度見通しがついた段階で法人成りという方法をとることができますが、
マレーシアでは外国人が個人事業登録をすることが認められていないため、この方法を取ることはできず、
初めから現地法人(株式会社)を設立することが求められます。

そして、自身で設立した法人に雇われるかたちを取り、就労ビザ(=雇用パス)を申請します。

 

就労ビザ申請の流れ(マレーシア法人の場合)

以下、マレーシア法人(SDN. BHD.)を設立し、就労ビザを取得する流れについて解説致します。

なお、マレーシアにはもうひとつの法人制度、「ラブアン法人」(マレーシア国外を対象としたビジネスを行なうための法人制度。)というものがありまして、
ラブアン法人を利用して就労ビザを取得する場合は要件や手続きは全く別のものとなっており、
ラブアン法人での就労ビザ申請の方がハードルはかなり低く、取得までの工数が少ないためスピーディーです。


弊社はラブアン法人の設立、就労ビザ取得サポートも行なっておりますのでご興味がありましたら、ラブアン法人について解説したページもご参照くださいませ。

マレーシア法人に話を戻しますと、
マレーシア法人での就労ビザの申請は、就労ビザを発給を求める個人から行うのではなく、法人から申請を行います。

手続きの流れとしては概ね以下のとおりです。
ただし、その時々の政府の方針や業種によって流れが異なることが多々ありますので、
ケースバイケースでご相談ください。

  1. 会社を設立/駐在員事務所を設置
  2. 銀行口座開設、資本金払い込み、増資、オフィス設置、マレーシア人従業員の採用など
  3. 当該事業に必要なライセンス/許認可/承認を取得(事業所ライセンスやWRT Approvalなど)
  4. 移民局に会社の登録を行う
  5. 移民局への会社の登録が完了した後、個人の就労ビザを申請
  6. 在日マレーシア大使館またはE-Visaポータルサイトにてマレーシアに入国するためのビザを取得
  7. マレーシアにて就労ビザ(=雇用パス)を受け取る

上記の1からマレーシアでビザを受け取るまでの所要期間は、事案により様々(ライセンス取得が必要かどうか等)です。
就労ビザを取得できるまでに少なくとも半年から1年程度かかることが一般的ですし、
ビザ申請までには口座開設、オフィス開設等々で複数回マレーシアへお越しいただく必要がありますので、1年以上かかることも多くあります。
ラブアン法人の就労ビザの場合は4ヶ月前後

また、御社がビザ申請のために最善をつくしたとしても、マレーシアの役所側の事情によって手続きが予想外にずれこむこともありますので、
マレーシアでの事業開始予定日が決まってらっしゃる場合はなるべく早めに着手されることをお勧め致します。

なお、マレーシアにおいては、マレーシア法人設立時に取締役に就任することに関して就労ビザは必要ありませんので、
マレーシアに駐在予定であり今後就労ビザ申請をされる方や、日本に住んでいる方も現地マレーシア法人の取締役に就任することができます。

 

就労ビザの審査で考慮される項目

就労ビザの審査にあたっては以下のような要素が審査対象となります。

  • 資本金額と株主構成(外資100%なのか、それともマレーシア資本が含まれているか)
  • 当該事業を管轄する省庁の許認可/承認を得ているかどうか
  • 御社ビジネスがマレーシアにはないサービス、製品をもたらすものであるかどうか
  • 御社ビジネスがマレーシアに雇用をもたらすものであるかどうか
  • 当該申請外国人が就任するポストの重要性(そのポストが必要かどうか。マレーシア人で代替できないかどうか等)
  • 当該申請外国人の給与(月給5,000リンギット以上かどうか。月給1万リンギ以上が望ましい)、雇用契約期間(2年以上かどうか)、学歴(大卒以上が望ましい。大卒でない場合はその分野でより長い食義務経験が必要)、その業種での職業経験の年数(最終学歴に応じて3~7年)

 

扶養家族について

カテゴリー1(月給1万リンギ以上)、カテゴリー2(月給5,000リンギ以上)の就労ビザを取得した人の扶養家族(配偶者やお子様)は、
扶養家族ビザ(Dependent Pass)の発給を受けることができます。

このビザを取得することで、
就労ビザを取得した人が許可された滞在期間と同期間のマレーシア滞在が認められます。

 

就労ビザ申請で求められる資本金について

マレーシア法人が就労ビザ申請を行う場合、資本構成や業種に応じて、以下の資本金額が求められます。

ここでいう「資本金」は「授権資本金(authorized capital」ではなく、実際に払い込まれた「払込資本金(paid-up capital)」のことをいいます。
あくまでも「資本金」ですので、会社口座への払込み後、会社は自由に事業資金として使うことができます。国外へ投資することなども可能です。

資本構成求められる資本金額
外国人が100%保有している場合50万リンギ以上
マレーシア人との合弁企業の場合35万リンギ以上
マレーシア人が100%保有している場合25万リンギ以上
「小売、卸売、サービス業(コンサル含む)」の場合で、かつ、外国人が資本の過半数を保有している場合100万リンギ以上

 

外国人や外資系企業が株式を100%保有するマレーシア法人から就労ビザを申請する場合、
就労ビザを取得するための要件として、50万リンギット以上の払込済み資本金が求められます。

ただし、
「小売業、卸売業、飲食業、サービス業(コンサル業も含む)」の業種であり、かつ、「外国人が資本の過半数を保有する」場合、
就労ビザの申請に先立ち、国内取引・協同組合・消費者省(MDTCC)からWRT Approval(Wholesale Retail Trading Approval)を取得せねばならず、
そのWRT Approval取得のためには100万リンギット以上の資本金が求められることとなっております。

したがいまして、それらの業種の場合は、ビザ申請にたどり着くためには100万リンギ以上の資本金が求められるとお考えください。

逆にいえば、
「小売業、卸売業、飲食業、サービス業(コンサル業も含む)」の業種の場合でも、
マレーシア人が株式の過半数を持っている場合はWRT申請は不要ですので100万リンギの資本金は不要となります
(その場合は、上記表の「35万リンギ以上」を満たせば良いことになります)。

IT業種の場合、WRT Approvalは不要ですので、外資100%でも50万リンギの資本金で申請を行うことができます。

マレーシア資本(マレーシア企業やマレーシア人)との合弁会社が就労ビザを申請する場合は、
移民局が求める最低資本金は35万リンギットとなります。

マレーシア資本(マレーシアの企業や個人)による100%会社の場合、
外国人の就労ビザ申請のために求められる最低資本金要件は25万リンギットになります。

 

小売業、卸売業、飲食業、サービス業の場合のご注意事項

上述の通り、「外国人や外国企業が資本の過半数を保有するマレーシア法人」が「小売業、卸売業、飲食業、サービス業」などの業種を行う場合は、
就労ビザ申請を行う前に、MDTCCという省庁からWRT許可(Wholesale Retail Trading Approval)の取得が必要となります。

ここでいう「サービス業」にはコンサルティング業も含むとされていますので対象範囲は広いです。

WRT Approvalの取得はそれなりに難易度が高いものであり、
認可を得るためには100万リンギ以上の資本金が求められるだけでなく、
御社の商品やサービスが、「マレーシアにはこれまでにない」、「マレーシアにメリットをもたらす」「マレーシア人では同種の商品やサービスを提供することが困難」
であるというようなことが求められます。

ハードルが高いWRT取得の必要性を避けるために、あえてマレーシア人に資本金の過半数を持ってもらう、ということもよく行われています。

 

ご留意いただきたい就労ビザ申請が却下されるリスク

就労ビザを申請するためには、
ビザの申請のまえに会社を設立し、当該事業に必要な許認可を取得しておく必要がありますが、
万が一、就労ビザの取得が認められなかった場合でも、会社設立・オフィス費用・マレーシア人スタッフ雇用・許認可取得にかけた費用は戻ってこない、
という点はマレーシア法人で就労ビザを目指す場合のリスクとなります。

もし就労ビザが認可されなかった場合、
ひとまずはマレーシア人の従業員のみで営業を開始する方法を取るか(将来再度ビザ申請にトライする)、
あるいは、マレーシア法人を閉鎖して撤退をする、
という選択をすることになるかと思いますが、
撤退をする場合は、すでに採用したマレーシア人の雇用、オフィス解約、その時点までの決算、法人閉鎖手続き等々、
様々な手続きが必要となり、かなりの時間を要するものとなります。

会社を設立する前に、許認可や雇用パスの要件を入念にチェックすることが必要なのですが、
就労ビザについては申請してみないことには分からない部分も多いというのが現状ですので、
事前にビザが認可されることの保証を得てから会社設立を行うということはできません。

 

日本法人(やその他外国法人)の駐在員事務所を設立し、就労ビザを申請する場合

マレーシア国外にある会社(=日本の会社など)が、マレーシア市場の調査やパートナー探しなどのためにマレーシアにオフィス(駐在員事務所(Representative Office)を設置し、
駐在員を置くことが認められています。駐在員は就労ビザを申請することができます。

メリットとしては、
外資系のマレーシア法人が就労ビザを申請する場合は50万リンギから100万リンギの資本金やその他様々な手続きや費用が求められるのに対して、
駐在事務所の場合は資本金は不要で就労ビザを申請することができるほか、
駐在員事務所の場合はマレーシアで法人税申告を行う必要がないために維持のための手間やコストが低く抑えられ
もしマレーシア二ビジネスチャンスがないとの結論に至った場合の撤退の手続きも簡略化されています。

ただし、あくまでも調査目的のための制度ですので、
駐在員事務所は営業活動をすることはできませんし、売上を上げることもできません。

また、駐在員事務所やその就労ビザの有効期限に関しても、
ひとまず2年程度の期間が認可された後、引き続き調査が必要と認められれば更に2年程度、最大でも最高4年くらいまで
とお考えいただいた方が良いかと思います。

したがいまして、駐在員事務所で調査を行った後、マレーシア進出を決定された場合には
別途マレーシア法人を設立し、マレーシア法人での就労ビザ申請を行っていく、
ということとなります。

駐在員事務所に関しましては、弊社ウェブサイトの下記ページにて更に詳しく解説していますので、ご興味がございましたら、ご参照くださいませ。

マレーシアにおける駐在員事務所の設立、メリット、デメリット

駐在員事務所の就労ビザに関しても、扶養家族(配偶者や未成年の子)に扶養家族ビザが発行されますので、
ご家族で移住することが可能です。

 

 

代替案:国外向けにビジネスをする方には、ラブアン法人という選択肢も。

上記のとおり、マレーシア法人を設立して就労ビザを取得することはなかなか大変です。

多額の資本金(50万リンギットや100万リンギット)が必要ですし、事務所を借りることも要件とされていますし、
法律上明記された要件ではないものの、ビザ申請前の段階でのマレーシア人スタッフの採用も実務上はほぼ必須です。

「マレーシア法人で就労ビザをとって、まずは自宅でローコストでスタート」ということは認められないわけです。

この点、マレーシア国外に対してビジネスや投資をすることを考えている方には、
マレーシア法人に比べて比較的条件の緩い選択肢があります。

それは「ラブアン法人を設立し、就労ビザを取得する」という方法です。

ラブアン法人とは、マレーシア国内の国際ビジネス金融特区ラブアン島にて設立することができる法人で、
通常のマレーシア法人とは異なるものです。

マレーシア法人というのは Companies Act 1965 という法律に基づいて設立されるものですが、
ラブアン法人とは Labuan Companies Act 1990 という全く別の法律に基づいて設立されます。

このラブアン法人をつかった就労ビザ取得という選択肢の何がよいかと言いますと、

  • 最低資本金の要件はなく(但し、実務的には、350万円程度の資本金で申請するのを推奨しています)
  • オフィスの契約はビザが認可された後でOK
  • 銀行業等の金融関係の業種を除き、ほとんどの業種でライセンスを取得する必要がない
  • ラブアン法人から発行される就労ビザは、「ラブアン島だけではなく、西マレーシアにも居住できる」ビザですので、クアラルンプールやペナンやジョホールバルなどに居住することも可能(但し、法務や税務上の観点からは若干注意点があります)

という点です。

なぜこのようなことが認められているかと言いますと、
ラブアン法人は、マレーシア国内でのビジネス活動が制限されているため、マレーシア法人のように国内のローカルのビジネスや仕事を奪う等の影響を与える可能性が少ないためです。

就労ビザ取得までの期間も、マレーシア法人に比べるとかなりスピーディーです。
現状(2023年)、マレーシアに来ることなく法人設立から就労ビザ申請までができており、
就労ビザが認可された後にビザ受け取りのためにマレーシアへ一度お越しいただくということも可能となっております。

マレーシア国外を対象としたビジネス、投資活動を予定されている方はぜひ一度ご検討いただくとよろしいかと思います。
弊社では、多くのラブアン法人の設立、ビザ申請をサポートしてきましたので、ご興味がある方はぜひ一度お問い合わせください。

将来的に、マレーシア国内に対してもビジネスを行ないたいとお考えになった場合には、
別途マレーシア法人を設立し、ビジネスを展開することも可能です(但し、法務や税務上のご注意点はありますのでご相談ください)。

なお、ラブアン法人の設立要件や就労ビザ取得要件につきましては、過去、一時的に厳しくなったこともあります。
その後、緩和政策がとられ、今(2023年)は比較的どちらも認められやすい状況となっていますが、再度厳しくなる可能性もございます。

ラブアン法人設立に関しては、下記ページをご覧下さい。
また、弊社コンサルタント熊木のブログでもラブアン法人の情報を発信しておりますので、ぜひご覧下さい。

ラブアン法人設立サポート – 10年以上の実績!

追記(2022年2月11日):ラブアン法人ガイド

ラブアン法人につきましては、

  • ラブアン法人の設立
  • 銀行口座開設
  • 就労ビザ・扶養家族ビザ申請
  • 税改正
  • 税申告の流れ
  • ラブアン法人をご利用いただく場合の注意事項
  • 設立、口座開設、ビザ申請、法人維持の費用
  • 弊社へご依頼いただく場合のサポート費用

などをまとめたPDFを販売させていただいております。

体系的に情報をご入手いただきたい場合は、下記の弊社オンラインストアより、
「ラブアン法人設立、口座、ビザ申請ガイド」をお買い求めくださいませ。

合計93ページ、約49,000字のボリュームとなっております。

2021年末の最新の改正内容も盛り込んでいるほか、
ラブアン法人のことだけでなく、一般のマレーシア法人との比較なども解説しておりますので、
マレーシア法人とラブアン法人のどちらを設立するかを悩まれている方にとっても役立つ内容かと思います。

単なる一般的な情報の羅列ではなく、
弊社の経験をベースとして、実務上の取り扱いなども多く盛り込んでいる点が一般的な市販の書籍やネット上の情報などと異なる点です。

 

お支払いにつきましては、
Paypalのほか、「別のお支払方法」から、クレジットカードでご購入いただくことが可能です。

 

当ガイドの購入費用につきましては、
購入後1年以内に実際に法人設立費用に進むこととなった場合には、
設立サポート費用から控除させていただいております。

Kumakiblog Online Store

目次:

なお、一般のマレーシア法人設立につきましても、
現在、設立ガイドを作成中ですので、完成次第、上記のオンラインストアにアップさせていただきます。

今のところは、まだ有料で販売するほどのボリュームや完成度ではありませんので、
マレーシア法人の設立をご検討されている旨をメールいただきましたら、
無料で交付させていただいております。

その他のサービス、分野等に関しましても、随時、執筆していきますので、
完成次第、オンラインストアにて販売させていただきます。

 

 

レジデンスパスについて

2011年に創設された制度です。

以下の条件に該当する個人は、レジデンスパス(Residence Pass)を申請をすることができます。

 

  • マレーシアにて最低でも3年以上働いた経験があること。
  • 申請時点で、3ヶ月以上の有効期限がある就労ビザ(Employment Pass)を保有していること。
  • 月額15,000リンギ以上の基本給(福利厚生やボーナスを除く)を得ていること。
  • マレーシアの所得税番号を保有し、最低でも2年以上所得税を支払ったこと。
  • 規定以上の学歴の証明、または専門性の証明ができること。
  • 5年以上の職業経験

 

レジデンスパスを取得することができれば、以下のメリットを享受できます。

・勤務先を変更するたびにビザを変更する必要がありません。
・最長10年の就労・滞在が可能となります。
・配偶者と18歳未満の扶養家族も当該レジデンスパスの取得が可能です。
・レジデンスパスを取得した配偶者は就労ビザをとることなく、収録が可能です。

レジデンスパスを取得できそうな方は、
現在の会社にお勤めの間にレジデンスパスを取得し、その後、自分の会社を設立するということも考えられます。

 

マレーシアへ移住、起業するためのビザの種類や選び方

マレーシアへ移住、起業するためのビザの種類や選び方を下記のページで詳しく解説していますので、
併せてご参照くださいませ。

マレーシアへ移住・起業するためのビザの種類や選び方を司法書士が解説(2023年度版)