マレーシアへ移住・起業するためのビザの種類や選び方を司法書士が解説(2023年度版)


日本人の場合、ビザ無しでもマレーシアに入国することができ、90日まで連続して滞在することが認められていますが、
それ以上の期間の滞在を望まれる場合は、滞在目的に適したビザを取得することが必要となります。

このページでは、日本人がマレーシアに長期滞在されるケースで一般的に利用されているビザの種類、選び方をご案内致します。

なお、ビザ制度はわりと頻繁に変更がありますし、マレーシアでは後から決められたルールが過去に遡って適用されるというようなこともあります。
以下はあくまでもご参考程度としていただき、実際のビザ選択の場面ではケースバイケースでご相談くださいませ。

 

目次

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マレーシア移住でビザ選びに失敗しないための入門書

 
 

1.一般的に利用されてきたビザについて

1)滞在目的別のビザの選択肢

マレーシアには様々な種類のビザがありますし、2022年に新たに創設されたビザなどもあるのですが、
マレーシアの場合、あまり利用されていない制度や新しくできたばかりの制度は不透明なことが多いうえに、後から抜本的に変更されることもありますので、
まずは、一般的に多く利用されているビザを把握していただき、その選択肢からご検討を開始されるのが良いかと思います。

以下、一般的に利用されているビザを列挙致しました。
下記の(2)以降でそれぞれのビザ制度や選択の基準などを説明していきます。

就労や起業目的の長期滞在の場合:

    1. マレーシア法人の就労ビザ
    2. ラブアン法人の就労ビザ

マレーシア進出前の事前調査を行いたい企業向け:

    1. 駐在員事務所の就労ビザ

就労目的での1年以内の短期滞在の場合:

    1. プロフェッショナルビザ

教育目的の長期滞在の場合:

    1. 学生ビザ
    2. 保護者ビザ

リタイアメントや投資活動での長期滞在の場合:

    1. マレーシア・マイ・セカンドホーム・プログラム(通称、「MM2H」)

 

2)「就労・起業目的」の場合のビザ選択基準 – マレーシア法人 or ラブアン法人

外国人は個人事業主としての登録が認められておらず、就労ビザに関しても個人事業で申請することはできませんので、
マレーシアで起業する場合は法人設立が必要となります。

一般的に就労ビザと言われているものの正式名称は「雇用パス(Employment Pass」と言いまして、
自分で設立した法人に取締役として雇用されているというかたちで就労ビザ(=雇用パス)を申請するということになります。

就労ビザとして利用されているものとしては、
上記のとおり、マレーシア法人の就労ビザとラブアン法人の就労ビザの2種類がありますが、
基本的な考え方としては、

「マレーシア法人の就労ビザ」を取得することができれば、国内向け・国外向けのどちらのビジネスにも対応できるので
マレーシア法人の就労ビザが取得できればビザの観点ではベター。
ただ、マレーシア法人の就労ビザ申請のハードルは非常に高いため、
マレーシア国内向けではなく主に国外向けで起業を予定している場合や、その他税務の観点などでメリットが得られそうな場合は
「ラブアン法人の就労ビザ」が選択肢になる、

というイメージです。

「マレーシア法人の就労ビザ申請はハードルが高い」という点に関して補足しますと、
外資系企業(=資本の過半数を外国人や外国企業が保有する会社)の場合、申請する前に満たさなければならない要件として、

  • 払込済み資本金が50万リンギから100万リンギ(=約1500万円から3000万円) ※業種によって異なります
  • オフィス設置が必要
  • 事実上マレーシア人の雇用がほぼ必須
  • オフィス所在地を管轄する市役所からのライセンス、及び、御社が行うビジネスを管轄する省庁からの認可
  • 上記の要件を満たすために、そもそもビザ申請までに半年から1年(あるいは場合によってはそれ以上)かかることも多い

というようなものとなっております。

このようにハードルが高く設定されている趣旨としては、
マレーシア国内の産業やマレーシア人の小規模ビジネスを保護するという目的がありまして、
外国人による起業に関しては、ローカルの小規模ビジネスと競合しないようなある程度の規模のビジネスであることや、
マレーシアにはないようなサービス、商品、技術を持ち込むものであることが求められています。

マレーシア法人でのビザ申請のハードルが非常に高いことから、
マレーシア国内向けのビジネスを予定している場合でも、
ひとまずは国外向けビジネスのためにラブアン法人でビザを取得してマレーシアに滞在し、別途マレーシア法人を設立してマレーシア国内向けのビジネスを行う、
というようなかたちを取ることもあります。

この場合、ご自身が保有している就労ビザはラブアン法人のビザですので、ご自身がマレーシア法人のビジネスに関する仕事をマレーシア国内で行うことは認められません。
マレーシア法人の日々のオペレーションは採用したマレーシア人に行ってもらう、などが必要となります。
マレーシア国内向けビジネスの比重の方が大きくなってきた際には、ご自身のビザをマレーシア法人の就労ビザに変更することも選択肢となります。

下記のページは、ラブアン法人のビザ申請の流れなどを説明するページですが、マレーシア法人でのビザ申請の場合との比較もしていますので、
両法人のビザ申請の流れ等の違いを把握されたい方はぜひご覧ください。

なお、ラブアン法人のビザ申請の場合は、
設立時の登記上の資本金は350万円程度にすることをお勧めしておりますが、
その払込みはビザ取得が完了し、法人口座の開設が完了した後でもOKとされていますし、
オフィス設置もビザ取得の後でOKです。

ラブアン法人の場合、金融業等の特殊な場合を除き、
一般的な業種(IT業、貿易業、コンサル業等)の場合はライセンスは不要ですので
ビザ申請前にライセンスを取得する工程がなく、
法人を設立した後、次のステップとしてすぐにビザ申請へと移ることができます。

 

ラブアン法人設立、就労ビザ申請、口座開設の流れをイラストで解説!

 

「マレーシア法人での就労ビザ申請」や「ラブアン法人の設立やビザ申請」に関する詳細に関しては、下記のページなどをご参照ください。

マレーシアでの起業と就労ビザについて。

9年の実績をもつ弊社のラブアン法人設立サービスをご利用ください!

 

マレーシア法人の就労ビザもラブアン法人の就労ビザも、
扶養家族(配偶者、未成年の子)に扶養家族ビザ(Dependent Pass)が発行されますので、ご家族で移住が可能です。
なお、扶養家族はマレーシアで就労することは認められておりません。

 

3)マレーシア進出前の事前調査を行いたい企業向け – 駐在員事務所の就労ビザ

マレーシアに現地法人を設立するにはそれなりに初期投資もかかりますし、もし失敗に終わった場合には会社を閉鎖する手続きを行いマレーシアから撤退することになりますが、
マレーシアでは閉鎖の手続きもかなり大変で時間もコストも要します。

そこで、そのような事態に陥ることを回避するための制度として、「駐在員事務所(Representative Office)」という制度があり、
マレーシア国外にある会社(=日本の会社など)が、マレーシア市場の調査やパートナー探しなどのためにマレーシアにオフィスを設置し、駐在員を置くことが認められています。

メリットとしては、
外資系のマレーシア法人が就労ビザを申請する場合は約1500万円から3000万円の資本金(=初期投資)やその他様々な手続きや費用が求められるのに対して、
駐在事務所の場合は資本金は不要で就労ビザを申請することができるほか、
駐在員事務所の場合はマレーシアで法人税申告を行う必要がないために維持のための手間やコストが低く抑えられるほか、
もしマレーシアで勝機がないとの結論に至った場合の撤退の手続きも簡略化されています。

ただし、あくまでも調査目的のための制度ですので、
駐在員事務所が売上を上げることはできませんし、
ひとまず2年程度の期間が認可された後、引き続き調査が必要と認められれば更に2年程度、最大でも最高4年くらいまで、
とお考えいただいた方が良いかと思います。

駐在員事務所での調査を通して、マレーシア進出を決定された場合はマレーシア法人を設立し、マレーシア法人でのビザ申請を行っていく、
ということとなります(なお、マレーシア法人を設立してすぐに就労ビザが申請できるわけではないですので、駐在員事務所の就労ビザの期限に合わせて計画的に準備を進める必要があります)。

駐在員事務所に関しましては、弊社ウェブサイトの下記ページにて更に詳しく解説していますので、ご興味がございましたら、ご参照くださいませ。

マレーシアにおける駐在員事務所の設立、メリット、デメリット

 

駐在員事務所の就労ビザに関しても、扶養家族(配偶者や未成年の子)に扶養家族ビザが発行されますので、
ご家族で移住することが可能です。

 

4)短期の就労目的の場合 – プロフェッショナルビザ

「プロフェッショナルビザ」(正式名称、「Professional Employment Pass」)もマレーシア国内で仕事をするためのビザですが、
1年以内の短期間プロジェクトなどのために利用される短期の単発ビザです。

日本人の場合、ビザを取得しなくても90日までは連続して滞在することが認められているうえに複数回の入国も可能ですので、
単にマレーシアにおいて商談をする程度であればこのビザを申請されているケースは殆どないかと思います。

主に利用されているケースとしては、
日本の企業がマレーシアの提携先に対して数ヶ月単位で技術者・専門家を送り込み、現地に滞在させて技術指導などを行う、
というような場面です。

なお、このプロフェッショナルビザは、
短期プロジェクトのためのビザであるにもかかわらず、招致する側の企業が満たさなければならない要件がかなり厳しくて使い勝手が悪かったのですが、
2022年10月から「30日以内の就労目的の滞在を認める「PLS@XPATS」というビザ」というハードルが低めの短期就労ビザ制度が導入されたようです。
今後は、必要な期間に応じて使い分けていくことになるのではないかと思います。

 

5)教育目的の滞在の場合 – 学生ビザと保護者ビザ

お子様がマレーシアのインターナショナルスクールに入学する場合、
学校側(や学校の提携するエージェント)がお子様に学生ビザ(Study Visa/Student Pass)を手配してくれる場合があります。
お子様が学生ビザを取得できた場合は、保護者のうち1名が保護者ビザ(Guardian Visa/Guardian Pass)を申請することができます。

ご注意いただきたい点としましては、
学校によっては学生ビザを手配・発行してくれない場合もあるという点と、
学生ビザが発行される場合でも、保護者のうちの1名にしか保護者ビザは発行されませんので、
いわゆる母子留学(や父子留学)の場合はこの「学生ビザと保護者ビザ」で足りますが、
ご両親ともにマレーシアへ移住される場合は、もう一方の保護者に関しては他のビザの申請をご検討いただく必要があります。

ただ、ご両親とお子様全員でマレーシアへ移住される場合は、そもそも「学生ビザと保護者ビザ」は利用せず、
上記の就労ビザと就労ビザ申請者の扶養家族が申請できる扶養家族ビザ(Dependent Pass)、あるいは後述するリタイアメントビザ(MM2H)を利用するケースが多いです。

とはいえ、ひとまず先に保護者のお一人とお子様のみが移住される場合や入学時期が迫っている場合は、
ハードルが低い「学生ビザと保護者ビザ」で移住を達成し、その後、もう片方の保護者の方が移住される際に就労ビザ+扶養家族ビザに変更する、というようなケースもあります。

 

6)リタイアメントや主に投資活動でマレーシアへ移住する場合 – マレーシア・マイ・セカンド・ホーム・プログラム

高額の資産・収入要件や定期預金の要件がありますので、主に富裕層向けの長期滞在ビザです。
マレーシア・マイ・セカンド・ホーム(Malaysia My Second Home)の頭文字をつなげて、通称MM2Hと呼ばれています。

同様の長期滞在ビザは世界中多くの国に存在しますが、
マレーシアのMM2Hは、与えられる様々なメリットに対して申請要件のハードルが相対的に低いと言われていたため、
制度の創設以来、とても人気があるビザプログラムでした。

ところが、2021年に大きな変更があって申請要件が厳しくなったうえに、年齢制限が設けられて35歳以上でないと申請ができないものとなっていたり、
50際未満の場合は年間90日以上の滞在が求められるようになったため、以前に比べますと利用に適したケースの幅が狭くなってしまいました。

現状、主な申請要件としては以下のとおりです。

  • 35歳以上
  • マレーシア国外の資産 150万リンギ以上
  • マレーシア国外の収入 月額4万リンギ以上
  • 仮承認を得た後、マレーシアの銀行に100万リンギの定期預金

 

また、このMM2Hは、以前ある時期までは、MM2Hの公式ウェブサイト自身が「ビジネスもすることができる」ということもメリット面としてあげられており、
実際、公式サイト上で「会社設立の方法」が記載されていたのですが、
おそらくこれは当時MM2Hのプロモーションを担当していた観光省の勇み足であり、ビザを取り締まる移民局としては実はMM2Hにそこまでの権利を与えている認識はなく、
ある時期に急に修正が入り、MM2Hの公式ウェブサイトに「MM2H participants are not allowed to do business in Malaysia」というようなアナウンスがされ、
MM2Hはビジネスを行ってはいけないビザとなってしまっていました。

したがいまして、現状、MM2Hの利用は純粋にリタイアや投資をしながらマレーシアに住むケースが想定されており、
申請要件などとも照らし合わせますと、MM2Hを利用するのに適しているケースとしては以下のようなケースと言えるかと思います。

  • 教育目的で家族でマレーシアへ移住し、お仕事に関しては日本で経営している会社からの配当や役員報酬を受け取って、あるいはすでにある貯金でマレーシアで生活する場合
  • シンプルにリタイアメントとしてマレーシアに移住し、日本で経営している会社からの配当等や、投資先からのリターンで、あるいはすでにある貯金でマレーシアで生活する場合

 

なお、MM2Hの認可要件として、月額4万リンギ以上のマレーシア国外からの収入が求められますので、収入がない場合はこのプログラムに参加することはできません。
(とはいえ、MM2Hを申請するレベルの方はご自身の会社をすでにお持ちの場合が多いでしょうから、
ご自身の会社からご自身に対して役員報酬を支払う実績づくりをスタートすれば条件を満たすことができるようになるかと思います)

MM2Hの申請は弊社では直接は取り扱っておりませんが、信頼できる日系の代理店をご紹介させていただきますので、ご希望でしたらお問い合わせくださいませ。

 

2.2021年、2022年に創設された注目のビザ制度

1)2022年にできた新たな選択肢 – デジタルノマドビザ

2022年10月から、デジタルノマドビザ(DE Rantau Nomad Pass)という新しいビザがスタートしています。

このビザは、上記の就労ビザと違い、マレーシア国内の会社に勤める方を対象としたものではなく、
「マレーシア国外の会社(=日本の会社など)に勤務している方」、「マレーシア国外の会社から業務委託を受けている方」が、
マレーシアに住んでリモートで仕事をすることを認めるビザです。

なお、このビザを申請することができるのは、ITに関連する業務を行う方のみですので、それ以外の業務の方は利用することができません。

マレーシア進出を検討している段階の日本のIT企業としては、
リモートで働いてもらいつつ、「マレーシアに現地法人を設立する前に現地調査を行う」などの目的でも利用することができるかと思います。

認められる滞在日数は1年、プラス最大もう1年プラスの最高2年までとなっていますので、上記のビザに比べますと短いです。

 

2)2022年にできた富裕層・投資家向けの新たな選択肢 – プレミア・ビザ・プログラム

同じく2022年10月、マレーシア・プレミア・ビザ・プログラム(Malaysia Premier Visa Programme、通称「PVIP」)という富裕層向けの制度が導入されました。
この制度は、海外の富裕層や投資家、そしてビジネスマンを誘致し、同国の経済を活性化させることを目的としています。

これまで人気があったMM2Hが、近年の改定によって年齢制限が設けられてリタイアメントビザの色合いが濃くなっったことに伴い、
MM2Hが申請できなくなった若い世代の富裕層のニーズにも合う長期滞在ビザの制度という観点で設計されています
(そのため、マレーシア国内でのビジネス活動、就労もOKとされています)。

このプログラムでは、
一定額以上の「国外からの収入」「マレーシアでの定期預金」、そして「高額のプログラム参加費用の政府への支払い」等を条件として、
20年マレーシアに滞在する権利が与えられるほか、MM2Hと違い、このプレミアビザの場合はマレーシアでビジネスや就労をすることが認められている、という点が大きなメリットです。

MM2Hは近年の改定によって年齢制限が設けられてしまいましたが、プレミアビザは年齢制限はありませんので20代前半でも申請は可能です。

プレミア・ビザ・プログラムに関しましては、弊社ウェブサイトの下記ページにて更に詳しく解説していますので、ご興味がございましたら、ご参照くださいませ。

ビジネスも可能な富裕層向け長期滞在ビザ、マレーシア・プレミア・ビザ・プログラム(PVIP)

 

3)2021年に創設されたIT起業家向けビザプログラム – マレーシア・テック・アントレプレナー・プログラム

2021年、マレーシアでIT分野での起業を考えている方向けの新しいビザプログラムとして、
Malaysia Tech Entrepreneur Programme(通称「MTEP」)が創設されました。

ハイテク産業に従事する起業家、経験豊富な起業家、投資家を誘致するために設計されたプログラムとなっており、
新規起業家向けの1年ビザと、既存の起業家または投資家およびその扶養家族向けの5年ビザが提供されています。

IT分野であれば全てこのプログラムに参加できるわけではなく、
ブロックチェーン、フィンテック、IoT、ドローンテック、アグリテック、ヘルステック等々のハイテク産業が対象とされています。

下記リンクは、MTEPを管轄しているMDEC(マレーシア・デジタル・エコノミー社)のウェブサイトの該当ページです。

Malaysia Tech Entrepreneur Programme – Malaysian Digital Economy Corporation