司法書士が答えるマレーシア遺言相続Q&A


目次

質問:「マレーシアに投資して資産運用(預金や不動産など)をしている場合、マレーシアで遺言をつくっておいた方がよい」と聞きましたが、本当でしょうか?

 

回答:
たしかに、「マレーシア 遺言」というキーワードで検索をかけますと、
「マレーシアの相続手続きは遺言がない場合とても長くかかるので、現地で遺言を作成しておいた方がよい」というアドバイスを記載したウェブサイトやブログをよく目にします。

そのことが正しいかどうかと言いますと、結論としては正しいです。

 

しかし、私の考えは、他のサイトとは少し違います。

私は、そもそもマレーシアに資産があるかどうかに関わらず、「日本に居住し、日本にしか資産がない場合」でも、残されるご家族のために遺言は作成しておくべきだとお伝えしたいと思っています。

なぜなら、相続の真の大変さは、手続きの長さや複雑さにあるのではなく、
遺言がない場合、「遺産の分け方について相続人で話し合わなければならない」というところにあるからです。

もちろん、日本の民法によって各相続人の相続分は定められていますが、定められているのはあくまでも「妻2分の1、長男4分の1、次男4分の1」というような割合のみです。
実際に不動産を誰が相続するのか、介護を手伝った分をどのように評価するのか、生前に長男に贈与した分を長男の相続分から差し引くのかどうか、といった具体的なことについては、
相続人同士で話し合わなければなりません。
その話し合いが、いつのまにか争いとなり、以前は仲の良かった兄弟、母子の関係を悪化させる事例を私は多く見てきました。

相続がいわゆる「争続」になるのに遺産の大小は問わない、金額が小さくても揉めるときは揉める、
というのは、我々法律実務家の間でよく言われていることです。

ですので、残されるご家族に対する責任として、
マレーシア移住やマレーシア投資の有無に関わらず、遺言を作成されることを強くお勧め致します。

 

 

質問:なぜマレーシアの相続手続きは時間がかかるのですか? 日本と何が違うのですか?

まず、日本の場合は、遺言がなくても、相続人同士で相続の分配について協議(「遺産分割協議」と言います。)を行い、
それを書面にまとめ、相続人全員が署名捺印をしたものを銀行や役所(登記所など)へ提出することで、預金の引き出しや名義変更が可能です。原則として、裁判所を通す必要はありません。

遺産分割協議さえスムーズにまとまれば、手続きは非常にスピーディーです。
数週間〜1ヶ月で手続きを全て終えることも可能です。

対して、マレーシアの場合、相続手続きは原則として裁判所を通してする必要があります。
そしてその手続きは、一般的に非常に長く時間がかかります(数ヶ月〜数年)。
但し、遺言をつくっておくことで、手続きはシンプルになり、要する期間は短くなります。

 

 

質問:相続手続きが長くかかると何が問題なのですか?

手続きに非常に長い時間がかかることの何が問題かといいますと、
その間、相続財産を相続人が有効活用できないということはもちろん、
日本の相続税は、相続開始から10ヶ月以内に相続税を納めなければならないということになっているため、納税資金を他で用意しなければならなくなるということです。
これまで、相続税というのは、一部の富裕層のみに課せられるものでしたが、平成25年の相続税改正により、相続税の課税対象が大幅に引き上げられ、もはや富裕層だけの問題事とはいえなくなりました。

また、手続きに長期間を要するということは、費用もその分大きくなるということでもあります。

その点、遺言を作成しておけば、(裁判所を通さないといけないという点は同じであるものの)手続きは非常にシンプルになり、迅速に遺産の引き継ぎが可能となります。

 

 

質問:遺言をつくる場合、日本とマレーシアのどちらでつくればいいのですか?

いくつかの選択肢があります。

ひとつは、日本国内の資産、マレーシア国内の資産のどちらの相続についても、日本の遺言に記載する、という方法です。
日本でつくった遺言をマレーシアの裁判所でも検認してもらい、マレーシアの資産の相続手続きに使用できたという事例があります。

もうひとつは、日本の資産については日本の遺言で分配方法を定め、マレーシアの遺言はマレーシアの遺言で分配方法を定める、という方法です。

但し、前者を選択する場合でも、マレーシア国内の資産の相続手続きについてはマレーシアの法律に則ることは変わりません。遺言作成にあたっては、マレーシア国内資産の記載方法などを現地専門家に確認されながら進めることをお勧め致します。

選択肢は上記だけでは有りませんが、私自身としては、事案によりますが、基本的には上記のうち後者をお勧めしています。

 

 

質問:マレーシアは相続税がないと聞いたのですが、私もマレーシアに移住すれば相続税が課せられないのですか?

マレーシアに相続税がないことは正しいですが、マレーシアに移住すれば相続税が課せられなくなるという点は誤りです。

日本人の相続については、その日本人がどこに住んでいようとも、相続税法が適用されます。
そして、当相続税法によれば、相続人・被相続人の双方が10年を超えて日本国内に住所がない場合のみ、
「制限納税義務者」として、日本国外財産については日本の相続税の課税対象から除外されることとなります。

 

ですので、単に被相続人がマレーシアに居住していたというだけでは相続税課税対象外とはなりません。

また、「双方が10年を超えて日本国内に住所がない」という要件にあてはまるとしても、
相続税の課税対象から外れるのは国外資産のみですので、日本国内の資産については相続税が課せられます。

あとこれもよくある間違いですが、相続税だけでなく、贈与税についても、上記条件にあてはまらない限り、国外財産の贈与についても日本の贈与税が課せられます。

 

質問:日本人が亡くなった場合、マレーシア国内に有する資産の相続分はマレーシアの法律によって分けることになるのですか?

日本には、国際的な法律問題に関するルールを定めた法律として「法の適用に関する通則法」という法律があり、その法律は、「相続は、被相続人の本国法による。」と定めています。

ですので、日本人が亡くなった場合、その相続については日本の法律が適用されることになります。

しかしながら、マレーシアにも国際的な法律問題に関するルールを定めた法律(条文)があり、
それによれば不動産については財産所在地の法律により、動産については被相続人の最後の住所地の法によると定められています。

つまり、マレーシア国内に不動産をもつ日本人がなくなった場合、
当該不動産の相続に適用する法律が、日本とマレーシアとで異なることになりますので、非常に複雑な法律関係となります。

どのように複雑かといいますと、上記の事例で、この日本人の家族構成が、父、妻、子ども1人という構成だとすれば、
日本の法律によれば、日本の民法により妻2分の1、子2分の1が法定相続分になるところ、
マレーシアの法律では父に4分の1、妻に4分の1、子に4分の1という結果となります。

そして、マレーシア国内にある不動産の相続については、
その名義変更はマレーシアの裁判所を通して行われますので、
裁判所はマレーシアの法律に基づき、上記父に4分の1、妻に4分の1、子に4分の1という判断を下すと考えられます。

その場合、妻と子の立場からすれば、日本の法律では、自分たちが2分の1ずつもらえるところ、
マレーシアの相続手続きにより父に4分の1が分配され、もしその後、父が亡くなった場合、妻からみて義理の姉や兄にその不動産が相続されることになり、
非常にややこしい状況となるのです。

このような事態が発生することをさけるためにも、遺言をつくっておくことが非常に重要です。